打田翠【interview】後編〜ゆっくり進んでいく中で見えてくる景色〜
2022.05.23
真っ暗な闇が薄らいでいき少しずつ現れる白い光。
その光がどんどん闇を吸収して 夜と朝が入れ替わる瞬間の空。
夜でもあって朝でもある。
その曖昧な時間の中に僅かに見られる
美しいグラデーションの空をぼんやり眺めていると
打田さんの花器を思い出します。
釉薬で色をつけるのではなく
籾殻を敷き詰めたさや鉢の中で
焼き加減をコントロールする事によって
このグラデーションは生まれます。
当然ながら、人間の手で100%コントロールすることは不可能で
最後は自然の力に任せるという神秘的な作り方です。
同じ作品は二度と作れない。
ほんの僅かな違いで異なる色合い。
美しいグラデーションが生まれるまでの過程を中心にお話を伺いました。
小笹)以前工房へ伺った時は
こんなにさや鉢はなかったように思いますが…
すごく増えましたね。
これはランドスケープや楽焼を作る時に使うものですよね?
打)そうですね。微妙なサイズ感の違い
(作品を入れて周りにどれだけ空間が生まれるか)
によって 色合いが変わるので、こんなに数が増えてしまいました。
小)しかもこれ…既製品ではなくて手で作っていますよね?
打)以前作ったものが使えることもありますが
大きい作品になるとそれに合わせて作った方が早いのですよね。
実は一度使ってしまうと2回目以降は
焼いた時に作品とさやの収縮率が変わるので
その分を計算して焼き方をコントロールしなければならないのです。
作品とさや鉢を同じ土で作れば
焼いた時も同じように収縮してくれるのですけどね。
そのあたりがとても難しいです。
小)それぞれの収縮率が違うと色合いも違うものになるのでしょうか。
打)そうなのです。全然違うものになりますね。
考えるとゾッとしますよね 笑
5年前のヒメミズキでの個展では
コバルトを土に混ぜた青の調整がまだ上手くできませんでしたが
最近はコントロールして、結構良い感じに焼けるようになってきました。
小)打田さんは釉薬を使うのではなく
あえて大変なこの技法で色を出す事を選んでいますが
釉薬を使わない理由はありますか?
打)質感ですかね。焼締の質感が好きなのです。
楽焼は透明釉もかけていますけどね。
質感、重さ、かたち、色合い
全体のバランスが美しいなと思えるものを作りたいと思っています。
(※楽焼は銅などの金属粉を粘土に練り込み、かたちを成形したあとに1000度の窯で焼成。
熱いうちに窯から取り出して籾殻の中に入れていぶし水で急冷する事で、独特な色合いを生み出しています)
小)柔らかそうですが硬くて 、何だか美味しそうに見える
このうつわも素敵ですね。最近作られているものでしょうか?
打)はい。花器やオブジェだけでなく
うつわも色々作りたいと思っているのです。
最近作っているこれは手捻りではなくて
自分の作るイメージよりも大きめにタタラでかたちを作った後
好きな曲線になるように少しずつ削り出しています。
小)これもまた厚みがあって土を乾かすのに時間がかかりそうな…
打)そうですね。ゆっくり乾かしていくので結構時間がかかるかもしれません。
やっぱり少しずつ進んでいくのが自分の性格に向いているみたいですね。
ゆっくりと少しずつ
自分の中の美しいと思える感覚を探り
対話しながら生み出される作品。
目に入った瞬間にはっと心が動かされるような自然の風景のように。
持っているとそれだけで落ち着くお守りのように。
そんな存在になれるような美しいと思えるものを。
打田さんは今日も変わらず
コツコツ自分と向き合いながら 制作されているはずです。
うつわでありながらうつわだけには留まらない何かを。
打田さんの作品に触れることで
自分の中に眠っている
新しい自分の感覚を見つけられそうな
そんな淡い期待を抱いてしまうのは
きっと私だけではないはずです。
打田翠さんの作り出す世界観をどうぞお楽しみに。
打田翠 個展
2022.6/4(土)〜6/12(日)
Open 11:00-18:00
6/7(火)休み
※作家在廊日6/4(土)
6/4(土)は13:00まで要予約
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打田 翠
1983年 兵庫県神戸市生まれ
2005年 大阪芸術大学工芸学科陶芸コース卒業
2007年 多治見市陶磁器意匠研究所 修了
2016年〜岐阜県瑞浪市にて制作